まん丸い屋根の下

なんの予兆もなく なんの準備もなく 夕立のように 驟雨のように この思いがいきなり ぼくの頭の上に降りかかる

空が曇るのがわかる分 夕立のほうが まだ幾分か可愛げがある

自分こんなんだから それを言うたび 君は ぼくの腕に手をそっと回してくれる もっと胸を張っていいよと言ってくれる

自分こんなんだから 今ここで こんなつまらない言葉を並べることしか 何もできないのです

冬は嫌いだ 冬なんか大嫌いだ 骨を刺す寒さで身が震える 少しの不注意で風邪を引く 粛殺した木々で心がすさむ

冬は好きだった そんな時もあったのかも知れない 君と一緒に見た燦々とした街灯 ポケットに入った君の手の温度 ぼくのつまらぬ言葉に耳を傾ける君 ぼくに世界一の笑顔を見せた君

ああ やはり冬は嫌いだ

君の好きな歌を聴くだけで 君をこんなにも想ってしまう 消し損なった連絡先を見ただけで 君との思い出が溢れてしまう その時 ぼくは知った ぼくにもこんな感情があるのだと そして ぼくは知った この感情は許されないのだと そこにあったかも知れない未来を ぼくにその幻を掴む力はもうない ただこの時間に 甘酸っぱい時間に ほろ苦い時間に あと一瞬だけ 溺れさせてくれ この一瞬だけ 溺れさせてくれ

雨に 流されるもの 流されないもの 流されるのは 誰の罪

なんてわがままな生き物なんだ 暑い日には 涼しくなってほしいと言う 寒い日には 暖かくなってほしいと願う

なんてわがままな生き物なんだ

私は知っている 貴方の一番は、私ではないということを 私は知っている 私の一番は、貴方ではないということを

もし、貴方の一番になりたいかと聞かれたら 私は否定するだろう 貴方の一番になれる自信は、私にない 叶うことのない願いを 私はしたくないのだ

それよりも私は 貴方を自分の一番にできる自信もない 私には大事な人が沢山いる 貴方と、可愛らしいその人達を 私は無意味な順番付けをしたくないのだ

だからせめて 貴方の一番を 貴方が大切にしているもの達を 私にも大切にさせてください

秋空や一人で歩くこの道と早稲田の杜の鳥のさえずり

安らぎは何処ぞ この世界の果てにある、と

世界の果ては何処ぞ この四畳一間の中にある、と

真の安らぎは何処ぞ この世界の始まりにある、と

世界の始まりは何処ぞ 母の温かい胸の中にある、と

わたしは母の腕にしがみついた 母の腕はわたしを優しく包み込んだ

ぼくはひたすら 荒い息をしながら この道を走っていた

両目を閉じて 走る 両耳を塞いで 走る まっすぐ前に向かって 走る 決して振り返らずに 走る

ぼくの後ろに 黒い いびつな縊死体がぼくを追いかけている 狂気に溢れる笑顔と 希望に満ちた眼差しと 甲高い叫び声と 力強い両腕をした 縊死体が ぼくを追いかけている

ぼくに縊死体は見えない でも縊死体は確かにそこにいる ぼくは縊死体から目を逸らす でも縊死体は鋭い目線でぼくを見つめている

抗えない疲れがぼくを襲う そのたびに 縊死体が耳元によじってくる ぼくの片手がそれを振りほどこうとし もう片方の手が それを掴もうとした

ぼくは自分の首を掻きむしった 肌が破り 血が溢れ出した ひたすらそれを見ている縊死体は 半分の顔が泣き もう半分に笑みがほころんだ